当サイトには無料の書き込みスペースを設けてある。コンサートやリサイタル、新譜を発表した方たちのための「情報告知板」"Tableau d'annonces"で、トップページの上部に目立つように配置してある。
日本各地で活動されているみなさんにご利用いただいている。フランスからも告知を寄せてくれる人たちもいて賑やかだ。主宰者としては、当サイトをご訪問のついでに覗いていただきたいページだと思っている。こういうことを可能にしてくれるんだから、やっぱりインターネットってものすごく便利だ。
フランスへ行く予定のある方、「何かシャンソンの催しやライヴを観たり聴いたりしたい」という場合にはこの欄を参考になさってみてはいかが。
その「情報告知板」に先日、またフランスからの書き込みがあった。
レ・ザンシャントゥール Les Enchanteurs という団体からのもの。パリのライヴハウス「ル・レゼルヴォワール」"Le Reservoir!で「ラ・フレンチ・アティテュード」"La French Attitude"なるライヴを開催する、との案内だ。
その店名に懐かしさを覚えた。「ル・レゼルヴォワール」とは、タンクや貯水槽、貯水池などを意味する単語。これから世に出て注目を浴びる新人や若手アーティストたちがいっぱい溜まってるよ、という店側の思惑なんだろう。
今年も11月19日から3日間、荻窪・東信閣でシャンソン・ライヴを行なう僕の友人、エリック・ルブロー Eric Lebraud が5年ほど前にそこで照明のアルバイトをしていた。彼を訪ねて行ったことを思い出して懐かしくなったのだ。
バスティーユ広場からフォーブール・サン・タントワーヌ通りに入る。庶民的な雰囲気の漂う界隈だ。サントル・ド・ラ・シャンソンのクリスティアン・マルカデ Christian Marcadet の家もこの近くだ。
しばらく歩くとフォルジュ・ロワイヤル通りが左手に見えてくる。そこを折れてすぐの所に「ル・レゼルヴォワール」がある。
その斜め前あたりにアラブ料理のレストランがあって、エリックの休憩時間に一緒に熱々のタジーンなどを食べた。僕は猫舌なので彼の休み時間を無駄にしはしないかと気が気ではなかった。
その「レゼルヴォワール」を舞台に毎月最終日曜日、新人やグループをプロデュースしようという企画が始まる。主宰するのはレ・ザンシャントゥール(魔法使いたち)。どんな魔法をかけてくれるのか、いつか機会があったら訪れてみたい。
レ・ザンシャントゥールもサイト(http://www.les-enchanteurs.com)を持っている。彼らがどんな活動をしているか興味を抱いたので、さっそく訪れてみた。なかなか楽しそうな気分がページから伝わってくる。
トップページの一番下に1本の記事を見つけた。
こういうタイトルがついている。《Un CD a l'ecoute Ou comment ecoute-t-on un CD chez les Enchanteurs...》「1枚のCDを聴く またはレ・ザンシャントゥールではどのようにCDを聴いているか」。
カトリーヌ・トゥヴナン Catherine Thouvenin さんという女性が書いたものだ。
軽い気持ちでその記事をクリックしてみた。CDを聴く際の心構えがちょっとした“詩”のような形で綴られている。読んでみると思わず膝を叩きたくなることが書いてあった。どれもこれも、僕がCDを聴く場合にしているのとまったく同じなのだ。何度も読み返しているうちに、ますますカトリーヌさんの“詩”に惹かれていった。
そこで、これは僕ひとりだけで楽しんでいてはいけない、当サイトの来訪者のみなさんにも読んでいただきたいと思うようになった。
善は急げ。カトリーヌさんにこの“詩”「Webサ・ガーズ」に掲載してよいかどうか許可を求めるメールを書いた。
嬉しい返事はすぐに来た。「サ・ガーズ」とは「さっさと事を進める」という意味もあるから、カトリーヌさんはそのニュアンスを酌んでくれたのかもしれない。返信にはこうあった。
> (...)sachez que suis egalement tres contente que ce petit texte puisse
> vous toucher et je vous donne l'autorisation de le recopier en entier.
> 小文があなたの心を動かすことができるなら嬉しく思います。全文を使ってもよろしいですよ。
と、好意的な文章だった。
前置きが長くなったけれど、カトリーヌさんの“詩”の原文と対訳をどうぞお読みください。
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(原文)
Un CD a l'ecoute
Ou comment ecoute-t-on un CD chez les Enchanteurs...
Pour ecouter un CD
il me faut d’abord etre bien installee
dans un fauteuil.
Ensuite je me munis d’un crayon
et d’une feuille.
Je ne lis aucune coupure de presse,
aucun historique
pour eviter toute influence, je reste stoique
Je mets mon casque
et j’appuie sur la telecommande.
Je veille a ce que personne ne me demande.
Mon attitude a cet instant
est toute bienveillante :
j’ai envie d’aimer,
j’ai envie qu’il m’enchante,
je veux etre surprise,
que l’emerveillement soit de mise.
Enfin commence le premier morceau
et mes…. premieres notes… couchees sur le papier.
Le mixage est-il bien realise ?
Les paroles sont-elles bien mises en avant ?
La voix est elle sensible ? drole ? juste ? touchante ?
Les melodies variees ?
Les arrangements bien orchestres ?
Textes et musiques vont-ils bien ensemble ?
Si l’envie me vient d’effectuer un zapping,
Alors ce n’est pas tres bon signe
A la cinq, a la six, a la sept a la huit
Je prends encore quelques notes
Quand un avis defavorable me vient a l’esprit
Alors je reecoute le CD pour tenter de le ≪ repecher ≫
Pour y trouver des circonstances attenuantes
Enfin vient le moment de rendre la copie
Pour dire oui,
Mais aussi pour dire non
Les mots, eux aussi entrent dans la danse.
Tantot je detaille, tantot je condense.
Il me faut trouver les mots les plus justes,
les plus fideles a ma pensee
Ai-je (ou pas) ete touchee ?
Emue ? Surprise ? Derangee ?
C’est au final une histoire de coeur,
ai-je eu un petit moment de bonheur ?
J’imagine tout le travail des artistes
Des heures durant sur leur papier
et a leur instrument.
Et ces espoirs,
que je rudoie en une missive
Mais je ne peux m’empecher de penser
qu’il ne faut pas dramatiser,
J’ai envie de leur dire que ce n’est qu’un avis,
le mien.
Par Catherine Thouvenin
(対訳)
1枚のCDを聴く
またはレ・ザンシャントゥールではどのようにCDを聴いているか
1枚のCDを聴く
まずはソファにちゃんと
腰掛けなくては。
それから 鉛筆と
紙を1枚手に取る。
いかなる新聞や雑誌、
伝記的な事柄にも目を通さない
あらゆる影響を避けるために ストイックに留まる
ヘッドフォンをつけ
リモコンのボタンを押す。
誰にも求められないことに注意を向ける。
この時点では
私の姿勢はまったく好意的だ:
好きになりたいと思っていて、
そのディスクが私を魅了してほしいとも思っているし、
驚嘆すべきものによって
はっとさせられたいとも望んでいるのだ。
ついに 最初の曲が始まる
そして私の… 最初のコメントが… 紙の上に記される。
ミキシングは十分に行われているだろうか
歌詞は前に出ているだろうか
声ははっきりと感じられるか おかしいか 正確か 胸を打つものだろうか
メロディーは多彩だろうか。
アレンジはしっかりとなされているだろうか
歌詞と音楽とはうまく調和しているだろうか
いま聴いている曲を飛ばして
5曲目、6曲目、7曲目、8曲目へ飛びたくなったら
それはよくない兆候だ
私はまだノートを取り続ける
好ましくない意見が思い浮かぶ時
そのCDを“救い出す”ためにまた耳を傾ける
情状酌量の余地がないものかと
やっと 諾(よし)とか否とか
告げることのできる
瞬間がやって来る
言葉の群れも参加する
ある時は細部をあげつらい、ある時は要約し、
最も公平で 私の考えにふさわしい
言葉を見つけ出さなければならない
私は感動した(あるいはしなかった)のだろうか
心を動かされた? 驚いた? 心を掻き乱された?
この心の物語のおしまいに
私は幸せな一瞬を過ごしたのだろうか
私は想像する アーティストたちのあらゆる仕事を
紙や楽器の上に身をかがめて
過ごした時間を。
そして私が書くもののなかで手荒に扱うのでは という思いをも
でも 私は誇張するべきではないと
考えずにはいられない
アーティストたちに言いたい これは
私の意見に過ぎないのだ、と
カトリーヌ・トゥヴナン
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繰り返すけれど、これは僕がCDを聴く時の態度とまったく同じだ。まずは偏見とか先入観を排して耳を傾ける。よほどのことがない限り、次々と曲を飛ばして聴くということはしない。
だから何枚も聴くと疲れてしまう。それで「ディスクガイド」を書かなきゃとは思いながらも、ついつい後まわしにすることになる。
転載を快諾してくれたカトリーヌさん、どうもありがとうございます。
これからも彼女が書いた「心得」を守ってCDを聴き続けていきたいと考えている。