音楽を聴くメディアとしていまやコンパクト・ディスクはごく当たり前の存在となった。ソニーとフィリップスの2社の共同開発によってこの技術が世に出たのは1982年のこと。CDが僕たちの生活に溶け込んでもう20年経つことになる。
初めてCDを聴いた時のことを思い出す。
旧ソ連大使館や渡辺音楽出版にほど近い麻布狸穴にあった、ロンドンレコードというレコード会社のオフィスでのことだった。かつて東芝EMIでビートルズを初めて売り出すのに成功した高嶋弘之さんが副社長を務めておられた。この方、俳優・高島忠男さんのご実弟。
ポリドール系列のバークレーレーベルなどのLPが同社からリリースされていた。シャルル・アズナヴールの当時の新作やベストアルバムなど、折に触れて僕も対訳やライナーノーツ執筆などの仕事を貰ったものだ。
ある日、高嶋さんが「おい、これがコンパクト・ディスクだぞ」と出来たてのほやほやを持っていらしたところに出くわした。ディレクターのWさんや居合わせた人たちと耳を傾けた。
クラシックの楽曲がスピーカーから流れてきた。圧倒的な音量。分厚い音の塊に押し流されそうな勢いを感じた。LPとは違った力強さに思えた。その時の僕には「これからはこれが主流になるんだ」という高嶋さんの話がまだよく理解できなかった。が、業界の流れは見る見るうちにその言葉のとおりになっていった。
レコード針メーカーが廃業する、なんていう事態も起こった。
アナログレコードに親しみを覚えながらも、時代の趨勢に逆らっていてはこちとらも商売にならない。レコードプレイヤーを仕舞い込んでCDプレイヤーを買う。
LPのサイズは30センチ。同梱の歌詞カードも大きかった。対するCDは12センチ。アルバム・ジャケットのインパクトもぐっと弱く感じられた。なかに入っている歌詞カードもまた小さくなった。印刷される文字もぐっと細かくなって読みづらいな、と初めは思った。
が、それも慣れの問題。いまではとっくに「そんなものさ」と割り切ることができるようになってしまった。
CD全盛の世のなかだ。レコード屋さんとか、レコードショップと呼んでいた小売店もいまやCDショップと呼ばれるようになった。
しかし、CD会社とは言わない。相変わらずレコード会社と称する。「レコード」という語の方が歴史的な役割を担っているからだろうか。面白いものだなぁ。
ところでCDは売れているんだろうか。関係者のはしくれとしてはいつも気になるところ。
国際レコード産業連盟(IFPI:http://www.ifpi.org/site-content/press/20031001.html)が10月1日に発表したデータがある。世界70カ国、1500を超えるレコード会社が参加する同連盟の報告もよると、2003年上半期の世界での音楽関連のCD、DVD、インターネット配信サービスなどの販売状況が前年同期比10.9%減の127億ドル(約1兆4,100億円)相当になった、とある。
どうもCDの売上げは芳しくないらしい。
伸びているのは音楽DVDの売上高で、前年同期比で55%増だそうだ。CDに比べて単価が高いのに売れているというのだから、これから期待できる分野なのかもしれない。
オンラインで合法的に流通している30万トラックに及ぶ音楽配信サーヴィスの普及も指摘されている。
違法なファイル交換など海賊行為の影響に対して、同連盟は一貫して厳しい態度を示す。こうした行為が売上げ減につながるとの判断からだ。
レコード会社も黙って違法コピーを許しているわけではない。コピー防止とかコピーガードという技術を導入したCD(CCCD)を発売して対抗手段を取っている。
フランスを例にとれば、2002年にリリースされ、いまや200万枚を超えたセールスを記録したというパトリック・ブリュエル Patrick Bruel の 《Entre-deux》がある。1930年代、40年代のシャンソン・フランセーズの名曲を集めたこのアルバムをパソコンで再生しようとすると、まずユーザー登録するように指示が出る。登録しない限り、通常のプレイヤーでしか聴くことができない。
また、10月10日の本欄でちょっと紹介したアンリ・サルヴァドール Henri Salvador の新譜にもコピーガードがかかっている。
ヨーロッパや日本ではそうしたCDは多くなっている。アメリカは消費者の反対が激しくこれまで見送られてきたが、BMG(先に挙げたブリュエルの発売元)はいよいよコピー防止措置を施したCDを発売することにした、と報じられた。
音楽の作者、アーティスト、ミュージシャン、レコード会社などの権利者たちの利益を考えればやむを得ないところだろう。
今年上半期に売れたCDとしてセリーヌ・ディオンの《One Heart》、ノラ・ジョーンズの《Come Away With Me》、タトゥーの《200kmh In The Wrong Lane》などを先のIFPI報告では挙げている。
売れないCDは廃盤の憂き目に遭うことになる。これはLPの時代から変わらぬ現実。僕もこれまで仕事で関わったLPやCDがショップの棚からのみならず、レコード会社のカタログからも姿を消す、という事態に何度も出会っている。悲しいけれども仕方ない。廃盤にしないためにも、みなさんCDをお買い上げくださいね。
それはともかく、廃盤にも敗者復活のチャンスがあるのをご存知でしょうか。
社団法人日本レコード協会加盟メーカー24社主催による「レコードファン感謝祭2003 廃盤CD大ディスカウントフェア」(http://fair.jmd.ne.jp/)が、11月6日(木)から11月19日(火)まで開催される。インターネットを利用して買うことができるから便利。「最大70%OFF」だそうだ。
廃盤だけでなく、輸入盤や時限再販期間経過商品の割引き販売もあるというから、買いそびれたあの1枚に出会えるかもしれない。
ただし、事前にユーザー登録が必要。10月21日(火)から上記サイトで受付が開始される。
この催しについての問合せは運営主体の株式会社ジャパンミュージックデータまでメールで。(アドレス:fair@jmd.ne.jp)
廃盤に光を、といった企画だなぁ。僕がかつて携わったシャンソン・フランセーズのCDを見かけたら、ぜひお買い求めくださいね。
なお、CDの著作権などについての分りやすい解説が以下のサイトにあります。Save our music http://www.sme.co.jp/savemusic