記憶の海のどこかに置き忘れていた、人の名前や事柄がふとした瞬間に顔を現わすことがある。それらのものは波間に漂っていたり、島崎藤村が歌った「椰子の実」のように、足元に寄せてくる波に運ばれて来たり…。
しかし、久しぶりに手に取って眺めると、かつてとは微妙に異なって見える。こちらが年を取ったせいだろうか。もしそれが色褪せて見えたとしたら、きっと僕の感性が鈍くなってきているのだろう。かつてよりも色鮮やかにそのものの持つ深い意味を感じ取ることができたら、まだまだ感性の動脈硬化に蝕まれていないのだと思う。
先日、ピカソ美術館主任学芸員のフランス語を聞き取る仕事をしていて、懐かしさを覚える名前に再会した。ピカソがアルルカンを描いていることを説明する箇所で、主任学芸員のマダムは詩人ギヨーム・アポリネールに触れた。ピカソは画家連中よりも、「ミラボー橋」の詩人と親交を深めていた、と話す。アポリネールには「サルタンバンク」"Saltinbamques" という詩がある。サルタンバンクはサーカス芸人で、アクロバットなどを披露する。アルルカンもその仲間で、道化師的な要素もある。
モンマルトルに住んでいたピカソはまた、近場にあったメドラノサーカス団の興行をよく観に行ったという。そこでアルルカンを何度も目にしたことだろう。
イタリアの仮面喜劇コメディア・デッラルテの登場人物のひとり、アルレッキーノに起源を持つアルルカン。ピカソはそこに自分の似姿を見たのだろうか。いずれにせよ、アルルカンの存在はピカソにインスピレーションを与えていたものと思われる。
アポリネールが書いた「サルタンバンク」は村から村へ、町から町へと隊列を組んで移動して行く、彼らサーカス芸人たちの姿を描いている。ルイ・ベシエールがこの詩に曲をつけ、イヴ・モンタンのレパートリーとなった。邦題は「サーカス」。伝説的な1953年のエトワル劇場でのリサイタルでも披露されている。シンバルの大きな音、アコーディオンの響きなどがサーカス小屋の気分を盛り上げる。軽やかなテンポとメロディーが、芸人たちの身のこなしや暮らしぶりを暗示するかのようだ。楽しい余韻を観客に与えて立ち去って行くサルタンバンクたちの後姿が見えるようなエンディング。ちょっぴり物悲しさが漂う。
この「サルタンバンク」の他にも、シャンソン・フランセーズには旅芸人をテーマにした曲がいくつかある。エディット・ピアフ、ジルベール・ベコー、シャルル・アズナヴールもそれぞれ、旅の空の下で芸を披露する芸人たちを歌った。彼ら歌手たちもまた、旅芸人たちの身の上に似ていることから親近感を覚えたのだろうか。
サルタンバンクや旅芸人のテーマはこうして、また僕の記憶の前面に現われた。賑やかに興行を終え、いま目の前を通り過ぎて行く。思わず後を追いたくなる。彼らの隊列はどこへ行くんだろう。そして、今度いつやって来てくれるだろうか。
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[公演問合わせ先]
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公開は6月19日から、恵比寿ガーデンシネマで。
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詳しい情報はhttp://www.bcommebejart.comをご参照ください。
バルバラ、ジャック・ブレルのシャンソンが多用され、モーリス・ベジャールのひとつのバレエ作品『リュミエール』が創り上げられるまでを追ったドキュメンタリー。プログラムに僕が映画で取り上げられたシャンソンについての解説を書いています。
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カーラ・ブルーニ
デビュー・アルバム
『ケルカン・マ・ディ
〜風のうわさ』
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日本盤のみCD extra
「ケルカン・マ・ディ」
レオス・カラックス
監督作品PV収録
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フランス・アーティスト来日情報
カーラ・ブルーニ Carla Bruni
[日時]6月21日(月)、22日(火)
18h30開場 19h15開演
[会場]恵比寿ガーデンホール
[主催]J-WAVE
[後援]フランス大使館文化部
[協賛]恵比寿ガーデンプレイス株式会社
[協力]コロムビアミュージック
エンタテインメント株式会社
[企画制作]カンバセーション
[料金]\8,500(全席指定・税込)
[チケット取扱い]
チケットぴあ
0570-02-9966/Pコード:P169-782
ローソンチケット
0570-063-003/Lコード:L33331
イープラス
eee.plus.co.jp(PC、携帯から利用可)
カンバセーション
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『エディット・ピアフ 天に届く声』
《Edith Piaf la voix montait jusqu'au ciel》 |
『エディット・ピアフ
シャンソンの誕生』
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〈翻訳〉宇藤靖子
〈協力〉大野修平
¥9,240(本体価格\8,800) |
このDVDについては、4月23日付「幸せなのは一日に10分だけ…」に紹介文を書きました。本欄上部の「バックナンバー」で当該の日付をクリックしてご参照ください。
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