先日、僕が訳出した『ピアフ 愛の手紙 あなたのためのあたし』(平凡社)をある人に贈ろうと思い、書店に行った。
池袋リブロの2階には芸術関係の本が並んでいる。音楽コーナーの棚を探す。ここで以前に見かけたことがあったんだけど…。
拙著『哀愁と歓びのシャンソンの名曲20選』(中経出版)は数冊あった。ところが、エディット・ピアフとマルセル・セルダンの往復書簡集が見当たらない。
店員に自分の本があるかどうかを尋ねるのも、何となく気恥ずかしいもの。幸い、近くにジュンク堂がある。あちらに行けばあるかもしれない。
汗を拭き拭き、通りを向い側に渡る。エスカレーターに乗って、目指すは9階。音楽書はこのフロアに集められている。
品揃えが豊富なことで知られる書店だから、ここならあるだろう。
しかし、影も形もない。ここでも店員に声をかける勇気が出ず、すごすごと下りエスカレーターに乗った。
残念な思いは拭いきれなかったけれど、ないものは仕方ない。「きっと売れたんだろう」と、能天気に考えながら外に出た。そう、僕という人間は自分に都合よく考えるようにできているのだ。
本が売れないという、出版不況が叫ばれて久しい。その反面で、新聞広告などで見かけた本が書店にない、という現実もある。
売りたい側と買いたい側の間に存在するこのすれ違いは、いまに始まったことではない。売場面積の広い大規模な書店でさえ、先に書いたような具合だ。駅前などに多い、中小の書店でほしい本と出会えるチャンスはさらに少ないだろうと想像がつく。
「出版 断てるか負の連鎖」と題する朝日新聞の記事(8月17日付朝刊)が目に留まった。
興味深いグラフが掲げられている。「書籍の発行点数と市場規模の推移」というそのグラフによると、1996年から2006年にかけて、新刊本の出版点数はずっと右肩上がりが続いている。この10年間でおよそ2万点余り増えたことになる。
しかし、書籍と雑誌の実売総金額はそれに反比例してずっと右肩下がり。記事によると、昨年の実売金額は96年当時に比べて900億円減だそうだ。
新刊点数と実売金額の推移はグラフ上でX(エックス)を描いている。その交点は2001年と2002年の間。ちょうど21世紀が始まった時期と重なる。
本は古い時代のメディアになってしまったのだろうか。いや、そんなことはない、と本好きの僕は意固地なまでに思っているんだけれども。
目当ての本が書店で見つからないという問題の解決法について提言をしていた人がいる。『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一著 プレジデント社、2001年)に登場する、セブン-イレブン・ジャパン会長の鈴木敏文さんだ。
「いまの出版流通問題を解決するには、もし僕だったら、すべての出版物を収録した電子目録を作る」(同書 p.105)と述べておられる。
その端末を各書店に置けば、店頭にない本の発注が誰でもできるというわけだ。
出版社から預かった本を書店に納める取次会社にとっても、「どこの書店にどれだけ配本されていて、いまどこの棚にどれだけあるんだということがわかるはずなんです」と、鈴木さんは発言されている。(同ページ)
ヨーカ堂、セブン-イレブンの品揃えは、実際にそのようなシステムで管理されているという。傾聴に値する意見だと思った。
ようやく出版業界にもそうしたシステム作りの動きが出始めた、と先に挙げた朝日新聞の記事は続く。
製造から販売までの流通を一括管理する、サプライチェーン・マネジメント(SCM)を埼玉県桶川市に整備したのは取次会社トーハン。取次のもう一方の雄、日販(日本出版販売)も東京・王子流通センターに同様のシステムを稼働させるという。
記事には、「いくら流通データを集約しても返品を減らせるかは別問題」という、大手出版社首脳の言葉も引かれている。
確かに返品は書店、取次、出版社にとって、これまた頭の痛い問題だ。出版社が胸を張って作った本でも、店頭で売れなければ送り返されてしまう。行き着く先には、断裁というギロチン刑が本を待ち受けている。
著者のはしくれとして思う。自分の本がそんな憂き目に遭ってほしくなんかない。
毎日200点を超える新刊書が世に送り出されている、と聞く。そのすべてが読者の興味を惹く本とは限らないだろう。
「こんな本を読みたい」という、読者の要望を拾い集めるシステムがあってもいいような気もする。
インターネットから得られる情報は限りない。しかし、本からしか学びとることのできない何かがあることも厳然とした事実だ。
本が今後とも魅力的なメディアであり続けるために出版社、取次、書店だけでなく、ユーザーである読者も含めて考える時期に来ているようだ。あ、著者も仲間に入れてね。
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エディット・ピアフ 〜愛の讃歌〜
配給:ムービーアイ 今秋、有楽座ほか全国ロードショー!

エディット・ピアフを彷彿とさせるマリオン・コティヤール
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